MT車にはやってはいけない操作がある。
これを守らないと、クラッチが摩耗したり、ミッション自体を傷めてしまう。
といっても、やってはいけない操作は大きく分けて以下のとおり。
- 半クラッチの多用→クラッチ板が摩耗して、エンジン動力が伝わらなくなる。
- ギヤが入っている状態でシフトノブに手を載せる→ミッションの色々な部品を傷める
- ギヤが最後まで入っていない状態でクラッチをつなぐ→同じくミッションを傷める
- 停車時にクラッチを踏んだまま(教習はなぜかこれをやる)→レリーズベアリングというクラッチを切るための部品を傷める
- オーバーレブさせる→エンジンが故障する
ネット上には、もったいぶって10個以上も列挙している事例が散見される。
個性的な項目や揚げ足取りだろって項目だったり、よくよく見ると結局半クラッチのバリエーションでしょ、みたいのがたくさんあったり、だいたいこれらに集約されるのがわかると思う。
この記事では、根拠も一緒に説明するので、一つ一つの操作がなぜ良くないか納得できるはずだ。
ただし、説明をわかりやすくするため、イメージ優先にしているので、細かい部分は省略していたり、自動車工学的には必ずしも厳密ではないことをご承知おきいただきたい。
半クラッチの多用
まず、半クラッチの多用がなぜ良くないかという理由を説明しよう。
エンジンからミッションまでの構造は以下の通り。
エンジン→クラッチ→ミッション
エンジンとミッションを繋いでいるのがクラッチという理解でいい。
さらに、クラッチは、
フライホイール→クラッチ板→クラッチカバー
という構造になっている。
この中で、クラッチ板はザラザラで摩擦力が高く、これをエンジン側のフライホイールに押し付けることで、エンジンの力をミッションに伝えている。
押し付けるのがクラッチカバーの役目なわけだ。
完全にクラッチ板が押し付けられた状態(つながった状態)ならば、クラッチ板とフライホイールは、同じ速度で一緒に回るので問題はない。
ここで問題になってくるのが、「半クラッチ」という状態だ。
これは文字通り、つながってもいないし離れてもいない、という中間の状態だ。
これの何が問題なのかというと、クラッチ板が摩耗してしまうのだ。
ヤスリがけを思い浮かべるとわかりやすいかもしれないが、ヤスリを全力で押し付けすぎると削りたいものまで一緒に動いてしまって削れない。
わずかに表面を滑らせるような感じでヤスリを動かすと、ちゃんと削れる。
半クラッチはそんな状態だと思って差し支えない。
だから半クラッチを多用すると、クラッチ板の表面が劣化した使用済みのヤスリみたいになってしまい、摩耗するわけだ。
そして、その摩擦力でフライホイールとくっついているわけだが、摩耗すると摩擦力が低下して滑ってしまう。
これが、クラッチの故障の一つ「クラッチが滑る」という状態だ。
半クラッチは避けて通れないが、半クラッチにしている時間はなるべく短くするべきだ。
一言で半クラッチの使い過ぎがダメだといっても、こうなってしまう理由はいくつかある。
(これが、たくさん列挙することになってしまう理由)
さらに掘り下げていこう。
発進時に半クラッチを必要以上に長くとる
これは初心者がよく陥りがちな事例だ。
半クラッチの多用として一番多いのがこれだろう。
エンストを恐れるあまり、半クラッチの時間を多くしてしまう。
これは慣れれば半クラ時間は少なくなってくるので、練習あるのみだろう。
半クラッチの状態でアクセルを踏む
これは、発進時の多用とセットになることが多い。
走行中も、シフトチェンジの時にアクセルを踏みながらクラッチをつなぐのは避けるべきだ。
アクセルを踏むとエンジンの回転数が上がるので、高速でヤスリがけをしているような状態になってしまい、劣化が早まる。
高い回転数で繋いでしまうというのも、結果的に似たような状態であり、クラッチ板に負荷をかけることになる。
走行中にクラッチペダルに足を置く
これは知らず知らずのうちに、クセになってしまっている人が多いかもしれない。
これを機に是非改めてほしい。
クラッチペダルに足を置いてしまうと、意図せず半クラッチになってしまう可能性もゼロではない。
さらにクラッチペダルを踏むということは、後述のレリーズベアリングにも負荷がかかることになる。
走行中にシフトレバーに手を置く
これは諸説あって、ミッションの振動の逃げ場が無くなってしまうからという説、シフトフォークが劣化するからという説、単純に片手ハンドルが危ないからという説がある。
一つずつ見ていこう。
振動の逃げ場がなくなる
ミッションは、エンジンとつながっていて、内部でギヤが盛大に動いているので、当然振動もそれなりにある。
その振動はシフトレバーにも伝わっている。
この状態でシフトレバーの振動を抑えてしまうと、振動の逃げ場がなくなりミッション内部の部品が傷む、ということだ。
自分の体に無理やり例えると、手首を手首の体操みたいにブラブラさせている状態で、手首を無理に押さえながら同じ動きを続けると肘関節に負担がかかる…みたいなものか。(ちょっと苦しい例え…)
…と、ネット上では大抵ここで話が終わっている。
ただ、上記は「ロッド式」という、シフトレバーがミッションと直結されているタイプの話だろう。
FRの場合(縦置き)はロッド式なので確かにそうなのだが、多くのFFの場合(横置き)は、「ケーブル式」(ワイヤー式)といって、ケーブルでつながっている。
だから、振動は0ではないにしろ、抑え込むということにはならないのではないだろうか…と思う。
ケーブルに無駄なテンションがかかる、ということにはなるかもしれないが。
ケーブルは下記のようなものである。
ちなみにFRはこんな感じで、ミッションから直接シフトレバーが生えている。
シフトフォークが劣化する
マニュアルトランスミッションでギヤを入れるというのは、スリーブという部品をスライドさせて、任意の段のギヤを固定する、と言い換えてもいい。
そのスリーブを動かしている部品がシフトフォークだ。
シフトレバーを入れた方向に力をかけると、このシフトフォークをずっと押し付けることになる。
スリーブとギヤは回転しているので、それに必要以上に押し付けられることによって、摩耗してしまうというわけだ。
片手ハンドルだと危ない
これは細かい理由を言うまでもないだろう。
いつ何時緊急回避が必要な場面があっても、対応できるようにしなければならない。
ハンドルはしっかり両手で持とう。
余談
なぜかネット上には、これに関連して「ゴミ袋をシフトレバーに引っ掛けないようにしましょう!」とか「手を置いていると、何かの拍子にニュートラルになってしまい危険です!」などという文言が散見された。
誰かが言い出して、パクリ記事が何も考えずにコピペしたのだろう。
ゴミ袋の件でしいて2点ツッコめば、
一つ目は、ゴミ袋程度の重さでどうこうなるほど、シフトレバーは軽くない。
二つ目は、シフトレバーが動くような重さのゴミ袋を車内に置くな。
ということだ。
ゴミ袋を引っかけるとしたら、どうしても根元になる。
梃子の原理を考えれば簡単におかしいとわかるが、根元をゴミ袋程度の重さのもので押さえたとしても、先端の振動は抑えられないだろう。
また、大抵はシフトブーツがあるので、なおさらレバーを押さえるのは難しい。
それができるような重さのゴミ袋があったとしたら、そんなもの車内に置くべきではないだろう。
何かの拍子にニュートラルになる、に至っては、一体どんな運転をしていたらそうなるのか。
可能性はゼロではないのだろうが、さすがに揚げ足取りだろう。
ギヤが最後まで入っていない状態でクラッチを繋ぐ
これはたまーにあるのだが、シフトレバーの操作が終わる前だったり、何かの拍子にシフトレバーが最後まで入らなかったりした状態でクラッチを繋いではいけない。
もしくは、クラッチが完全に切れていない状態で、シフトチェンジをするのもよくない。
これをすると、「ガガガガ!」という異音(ギヤ鳴き)がして、いかにも危険な雰囲気を醸し出す。
これは主にシンクロがダメージを受けている。
シンクロは変速時のギア間の回転数の差を調整してくれる。
要は、変速をスムーズにしてくれる部品ということだ。
シフト操作が終わっていない状態ということは、シンクロやスリーブがきちんとギヤと噛み合っていない状態なので、このような状態でクラッチを繋いで、無理やりエンジンの力を加えるのはまずい。
クラッチが切れていない状態でも同様だ。
クラッチが切れていないということは、エンジンの力はギヤに伝わり続けている。
シンクロはギヤ間の回転数の差を調整してくれる、と説明したが、それはただ回っているだけのギヤに対してであり、エンジンの力で回っているギヤの動きを調整するほどの力はない。
したがって、調整したくても弾き飛ばされるようなイメージであり、そこで異音が発生する。
停車時にクラッチペダルを踏んだまま
これは教習中にはむしろ推奨、というか強制されたのではないだろうか。
停車状態からすぐに発進できるようにということで、これはこれで教習中においては意味があるのだろう。
1速に入れて、クラッチペダルはずっと踏みっぱなしだった。
慣れない操作で、左足がプルプルしたものだ。
それはともかく、これは実は主にクラッチのダイヤフラムスプリングやレリーズベアリングという部品を傷めてしまう行為だ。
まずレリーズベアリングがダイヤフラムスプリングを押し込むことで、クラッチが切れる、くらいに理解してもらえれば十分だ。
あまりイメージわかないかもしれないが、クラッチカバーはフライホイールに組付けられているので、
実は常に回っている。
つまり、常に回っているダイヤフラムスプリングを押し込む、という作業が必要になる。
例えるなら、回っている扇風機の羽根を真っすぐ押し込むようなものだ。
普通に真っすぐ押し込もうとすると、弾かれるか破壊される。
どうするか、というと自分も同じ速度で回りながら押し込めばいい。
そこでレリーズベアリングが必要になる。
レリーズベアリングがクラッチと同じ速度で一緒に回りながら押し込むという形だ。
さて、ここでようやくクラッチを踏み続けると、なぜレリーズベアリングやダイヤフラムスプリングが傷むのか、という話になる。
クラッチを踏むということは、レリーズベアリングは強い力で押し付けられる。
そうすると高速回転による摩耗や発熱により傷むことになる。
一方、ダイヤフラムスプリングは耐久性に優れているとはいえ、バネはバネなので、力を加え続けてしまうとやはり傷む。
もちろん、部品メーカーもそんなことはとっくに対策済みであろう。
しかし、傷むか傷まないかで言えば傷むので、クラッチペダルの踏みっぱなしは良くないのだ。
オーバーレブさせる
普通に走っている分にはまず起きないが、これは、エンジンを壊すことになる。
エンジン回転数にはレッドゾーンというものがあり、それ以上はエンジンが回らないように制御されている。(レブリミッターという)
しかし、シフトダウンの時に限っては、レッドゾーンに入ってしまうことがある。
これがオーバーレブだ。
例えば、レブリミッターが6000回転で作動するとして、2速で6,000回転、80km/h、3速で120km/h出るとしよう。
この時、3速で6,000回転の時点でシフトダウンすると、2速では6,000回転を超えてしまう。
ただ、こんな状況はとてもではないが、常識の範疇では考えられないので、参考程度でいいと思う。
まとめ
MT車でやってはいけないことを取り上げた。
MT車は自分の操作できる範囲が広く、運転そのものを楽しめるのが醍醐味だ。
ただ、反面、自分の操作にも注意を払わなければならない。
MTも進化して、色々な制御が入るようになったとはいえ、ATほど車側におんぶ抱っこというわけにはいかないのだ。
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